永遠の一コマ − 1 Shot from Eternity










ラストシーン − Last Scene


白いフェルトのハットを傾け
それにつられて首まで左にかしげ
瞳は黒々ともう何も映してはいず
何だかの緋いアルコールの入ったグラスを片手に
惑星テラへと堕ちてきた透きとおるような淡いシルエットは
そこに静かに佇んでいるだけだ
周囲の喧騒になどまるで頓着がないように
自分自身の境遇にさえ一向に関心がないように
永遠とも感じられるほど長いこと
そこに静かに座っているだけだ
(還るところがすでに無いので)
(ここに来た目的が悉く失われたので)
淡いシルエットはそうして時間の経過をなぞりながら
沈黙してそこに座っている










ノスタルジア − Nostalgia


その艶のあるのびやかなギターのフレーズが
ふいに埃っぽい街の雑踏に流れてきた時
私は俄かにノスタルジアを感じたのだ
   その甘酸っぱい胸の軋み
なにもそのギターのフレーズに特別な思い出があるのではない
それは過去の記憶とはなんの関わりもなく
ギターの音色そのものが私を懐かしさでいっぱいにした
私の胸の奥底の遥か彼方へと誘惑するもの...
そこにはあふれる陽光でいっぱいな永遠に緑の草原がある
(いや そこはもうゴールデンイエローの収穫期かもしれない)
その草の一本一本を優しく撫でている風のような
太陽の暖かい光を浴びたメタリックな葉先の輝きのような
柔軟でのびやかなギターの音色
ここではなく あそこを喚起させて止まないもの
地平線の向う側へとそそのかすもの
遥か遠くの未来の彼方に成就される私の故郷
   太陽光線をいっぱいに浴びた永遠に緑のオアシス...
私の胸の奥底の遥か彼方に滲みとおるような
居ても立ってもいられぬような
泣きたくなるような音のわななきが
ふいにどこからともなく流れてきた時に
私は甘酸っぱい胸の軋みとともに
純粋なノスタルジアのエッセンスに邂逅したのだ










ジャン・ルイ − Jean Louis


夕刻の風がどこからともなく吹き 空いちめんに涼気を運べば
私の胸はがらんとした空洞になる
その3次元空間のスクリーンの中で透明な俳優のイメージが呟いている...
   Time is short, and life is too long
その彼の半生については明らかでないのに
その台詞の意味ならば私にも了解されている
黒いジャケットの背中と裾を風が静かに撫でた時
   I’m broke(賭け放された)
と二人一緒に感じたのだ
ヴェルヴェットの嗄れ声がサウンドトラックで歌っているのは
   There's nothing to see, no one to meet
   and life goes on
   soon you'll forget all you've seen, all you've done
   only thing remains is just today
であり また
   I tried to find something new which really thrills me
   then I found I lost my senses to get excited
である そして
人生は途轍もなく長い
   all your hopes and dreams, driving me mad
   when they all die down, you'll have to say
   oh, time is short, and life is too long
彼はまだ何か言い足りなげな
そのくせ適当な言葉が見つからないとでもいうふうな
ふふ...と軽い含み笑いを残して次第に遠去かってゆくのだった










放浪 − Wanderer


(それじゃ また)
そう言うと背を翻して去ってゆく後ろ姿は
もうどうしても放浪者のものでした
しばらくの間ここに居て まるで永遠に棲むかのようにここに居て
最後にはやはりいつものように
無邪気な笑顔を残して去ってゆく後ろ姿でした
(それでは皆様 ご機嫌よう)
そう言うなりふつと消息を断ってしまう
生まれながらの放浪者のものでした
そうして一度ここを立てば
二度と再び舞い戻ってくることはなかろうと
確かに予感させるのでした
どこへ行こうとしているのか 何をしようとしているのか
誰にも分からず ましてや彼自身にも明瞭ではなく
胸の奥から湧きだしてくる衝動にかられて
そうするともう見知らぬ荒野への懐かしさでいっぱいになり
気がつけばすでに歩きだしているのでした
顆粒状の時間(とき)の波間で
涼風に吹かれ その風に全身を透き徹されて
淡いエメラルドの詩(うた)になり あるいはペールピンクの蒸気にまかれて
どこへ行くとも当てなどないのに颯爽と 時には疲弊したなりで
見送る者達の胸の中に哀しいほどに晴れやかな微笑を残して










びろうどの微笑 − Velvet Smile


もうほかに為す術がないので
彼女は優しく微笑むのでした
ほかにどうすることもできないので
白くて華奢な指先は慎ましく膝に置かれるのでした
深い碧緑色の天鵞絨のドレスの裾がかすかに揺らぎ
彼女のしなやかさを演出するのです
その曖昧な微笑の前にあっては
すべてが豫め諒解され宥されていると直観されるのでした










Velvet Smile


Because there was nothing else to do
She smiled gently with calmness on her lips
Because there was nothing else to be done
Her delicate fingers were modestly placed on her laps
Deep-green velvet dress had slightly swayed
Traced and embraced her impeccable grace
In the presence of her vague smile, intuitively I realized
All were understood and forgiven already










甘やかな死(ロマンス) − Sweet Death


あなたの鋭い貫くような眼光が私の心臓に突き刺さったのです
あなたに息の根を止められるなら決して悔いなどないと感じたのです...
ユダヤ教の神の老獪さで 流れるような澱みない動作で
すべてが予め黙示録の目論見通り 犯し難い天啓を執行する如く
無言のままに冷静沈着に 一糸乱れぬ有様で
瞳孔には人間的な潤いなど微塵もなく ましてや殺意さえもなく
鉛のような冷たい爪で無造作に私の首を絞め
馥郁たる薔薇色の秘蹟を浴びて私はひとつの渾沌と化し
名も知れぬ快楽に身を委ねるのです
永遠にあなたを宥しながら
そしてあなたのために祈りながら
無疵の大気がそれを目撃していました...
あなたは何事も無かったように飄然と立ち去ってゆくのです
その後ろ姿を薄れゆく意識の裡に見送りながら
私はあなたの冷酷さに感謝するのです
(かつての若き私にとってこれもひとつのロマンスでありました)
甘やかな死...豪奢な死の情景










シチリア移民の子 − Child of Sicilian Immigrant


そうなんです あの眼なんです...
(私の心をそぞろにさせるのは)
途方に暮れたグレイの眼
シチリア移民の子が立っているのはいつだって埃っぽい路の上だ
どこからやって来たのだか どこへ行こうとしているのだか
誰にも分からず ましてや彼自身にさえ明らかではない
人なつこく笑いかけていながらも その奥底には拭いきれない哀しみがあり
何か言いたげな半分開いた口元は
然し本当にはもう何ひとつ上手く表現できないのを知っている
そのためあふれる光の中で限りなく優しく
またたいへん儚く映る時がある
時に見られる緩慢な動作は彼の躊躇と優柔不断を表している
(何がどうなろうと構わない 何がどうなろうと同じなのだ)
そう呟いているようだ
それでも再び生き生きと屈託のない表情が蘇ってくるのは
まだ歩いてゆかなければならないことを予め知っているからだ
すべてをやり尽くしてしまったと すべてが終わってしまったと
そうして何ひとつとして成就しなかったのだと
どこか諦めているようなところがある
然し彼にふりかかる出来事は例外なくすべて善いのだと
限りない信頼に満ちてもいる
彼の焦点のぼやけたような どこを見ているのか分からない
実際にはもう何も見てなどいないグレイの眼は
ごつごつとしたシナイ砂漠の厳しい荒れ野の岩肌の色
あらゆる事がかつて起こり やがて煌めく砂粒に還元されてしまった
数々の夢や失望を見てきたシナイの砂漠の色
   紺碧の空の底の底
   荒れ野を渉る果てしない風
行く先も分からぬ埃っぽい路の上で
ひとりぼっちの遊星のように 完結しなかったドラマのように
どこからともなく吹いてくる風の只中に佇みながら
上着やズボンの裾までがやはり途方に暮れている
グレイの眼を持つシチリア移民の子は
まるでこここそ我が家だとでもいうように
ようやく辿り着いた約束の地だとでもいうように
オレンジ色の空の下で為す術もなく寛いでいる










ジュリアンに焦がれて − Yearning for Julian


ジュリアン
あなたにこうして逢えたのはほんの偶然に過ぎないのに
それにそんなに日数も経っていないのに
すでにあなたは私の裡へ想像以上に深くまで浸透し
甘ったるいようなやるせないような
もうわあっと泣きだしてしまいたいような
そんな感覚で私を満たすのです
ただ偶然に通りすがったというだけなのに
あなたの黒目勝ちの物言いたげな眼差しが私の胸を焦がすのです
ジュリアン
あなたに再び生きて此の世で逢えるのは
百千万億那由多劫分の一の確率でしかないのに
その奇蹟的な邂逅の喜びも束の間
お互いに異邦人としてのままでもうすぐ別れてしまうのです
私は自由な想像の中で
可能であり得たロマンスの様々なシチュエーションを思い描いては
幾度となく胸を焦がすのです
あなたにせめて想像の中だけでも側に居て欲しいと思うのです
ジュリアン
こうしてあなたと偶然に逢えたこと
それがどれだけ貴重なことなのか普通誰も分かってはいない
それがどれだけ稀なことなのか...そんなことは誰も構いはしない
でも私は自分がどうしたいのか分からない
あなたを是非ここに引き止めておきたいのか
(それだって結局は束の間の慰めでしかないのだけれど
 何故なら私達の存在自体が刹那的なものであってみれば
 いずれ訣別の時はやって来る)
それともこのままあなたを手放して物事が自然に起こるに任せ
そして二度目の偶然に望みを賭けるつもりなのか
(今度はそう簡単に奇蹟は起こりはしない)
どちらにしても
いずれあなたは遥か遠くの見知らぬ人になってしまう
そうしてもうお互いに思い出すことさえないのだけれど
(今まで幾万回となく繰り返されてきたすべてのロマンスの結末)
あなたの何事かを訴えるような眼差しが私の胸を焦がすのです
あなたの優しい眼差しも その愛苦しい唇も
いずれ時が来れば跡形もなく消えてしまうのに
夜空に瞬く流れ星のように軌跡も残さず消滅してしまうのに
それだからこそ今この瞬間が貴重な宝石の粒のように
闇夜に光り輝くのです
何故なら明日になれば天界の愛し児であるあなたは
その構成要素も組み立ても変えて全く異質の人になってしまう
あなたがこんなふうに素敵に明るい陽射しの中で輝いているのは
今日をおいて外に無いからです
ジュリアン
もう我を忘れて泣きだしてしまいたい程 私はあなたに焦がれている
そうして私はどうしようもない無力感でいっぱいになる
ジュリアン
この刹那 あなたは私のすべてであり
この瞬間 私はあなたのためならどんな事でも厭わない
無論こんな子供っぽい熱狂が一時限りのものだとは承知の上で
(時が経てば月並みなラブアフェアになってしまうのは承知の上で)
ジュリアン
もう身も世もあらぬ呈で泣きじゃくってしまいたい程
私はあなたに焦がれている










サイレントムービー(スローモーション) − Silent Movie


メタリックパープルのクーペに乗ってその人が登場して来た時には
すでにまわり中がお祭り騒ぎの賑やかさでした
笛に太鼓にバイオリン 人々の歓声 歓喜と涙
あたりいちめん噎せ返るような薔薇色のシャワー...
然しそんな華やかな祝祭の真只中で
その張本人であり また主役であるにもかかわらず
その人はまわりの熱狂の渦とは一際無縁であるかのように
真空のスポットに沈黙して座っている...
俄かに諸天体の運動が停止したかのように
一瞬エアポケットに迷い込んでしまったかのように
きらきらしたオルゴールの響きのような賑わいの中で
無瑕でそこに座っている...
すべてが決定的に遅いのだと直観されました
もう何をしようと 泣こうと喚こうと
そのウインドウ越しに見える真空には何の影響もないのでした...
その戦慄するような 然もほっとするような沈黙に感応して私も
しんと立ち尽くすより外に術がないのでした
そして私が呆然としているうちにその人は
何の感興も残さずに去ってゆくのでした...
そんな青い惑星の上で起こる情景が
スローモーションのサイレントムービーのように
宙宇にひっかかったエンドレスで巡り続けるエコーのように
極くゆっくりと無時間の中を廻っている...

理性でも知性でも感性でも捉えられなかったワンシーン
沈黙のひとしずく...
Open Secret










水色の空虚 − Pale-blue Emptiness


視界がぼんやり霞んでくるライラック色の黄昏時には
走馬灯のように 淡いゼラチン質のパノラマのように
人も街も何もかも もうぷるぷると震え半分消えかかっている
あとほんの少しだけここでパフォーマンスを演じて
(濃いプルシアンブルーの闇が降りて来るまでの束の間)
その後はみんなこの水色の空虚の中に跡形もなく蒸発してしまうのだ
そのせいなのか みんな心はどこか他所にあるかのように
覚束ない身振り手振りで そのくせ妙に急かされたように
今日最後の一幕を熱演するのに忙しい
   レインボーカラーのシャボン玉
みんな存在の証拠(あかし)を剥奪されたかのように
もう自分が誰でどこにいるのか判然としないとでもいうように
夢と現の境界あたりでたいへん頼りなく震えている
   アクエリアムのジェリーフィッシュ
水色の空虚は情け容赦なく あたりいちめんを覆い尽くし
人も街も何もかも
この冷たい 然しどこかほっとするように優しい気圏の海に
   偽時間・偽空間のさざ波の中に
あとほんの少しで波紋も残さず静かに消えてしまうのだ
濃いプルシアンブルーの闇が降りて来れば
すべては落ち着きを取り戻し
先刻までの心許無さは嘘のように消え失せる
あとほんの少しの辛抱だ...
ライラック色の黄昏時には 人も街も何もかもみんな
蜃気楼にようにエコーのように 最後のパフォーマンスを演じながら
このそら恐ろしくさえある空虚の中に蒸発してしまう時を待っている










グリーンフィールド − Green Field


忘れもしない汽車の旅...
開け放たれた窓際に後ろ向きに腰かけて
遥か彼方へと飛び去っていくグリーンのパノラマを眺めていると
様々なロマンスの情景が
昔のシネマの名場面のように 感動的なワンシーンのように
胸のどこか奥のほうの陽の当たる暖かい草地から
ゆるやかな蒸気となって湧き出して脳裡を徘徊し始める...
(すべてがすべてがすぎてゆく)
かつてはそんな緑の野原で子供達が無邪気に風と戯れていた
草の緑と空の青 光の洪水にうずもれて
かりかりと枯れ草の鳴る砦の跡では夕刻 不在者達に遭遇した
そのマグネットのような臨在感に どこか得体の知れないところに誘惑されて
行ったきり帰ってこられないようでもあった
真夏にはいつも正午頃
その酷暑と強烈な日差しのために宇宙が止まったようだった
物みなはどこにも隠れ処を持たず 白いアスファルトが目に染みた
カフェでは窓からこぼれる午後の日差しが
うっとりするような黄金色に光っていた
エアポートでは期待と不安で興奮した
港ではいつも潮風が 私を遥か遠方へと誘っていた
春の嵐...生暖かい春の風が吹いて何もかも足元から攫っていった
とある惑星の上で途方に暮れたこともある
また火星だかどこだかの赤土を無言で掘っていたこともある
全身汗まみれになって もう何がなんだか分からなくなりながら
夜の優しい抱擁の中でじっと耳を澄ましていたこともある
銀色の月がいつまでも無言で光っていた
また夕暮れ時には 白い竹の葉のさやぎの中で気もそぞろになった
真昼の見知らぬ街の雑踏で世界の涯てに この世の終末に
図らずも出くわしてしまったこともある
深夜 空港近くのホテルのバルコニーから街路を眺めて
未知の空間へと溶け出してしまったこともある
また前後不覚の透明な波打際で風と戯れたこともある
きらきらした顆粒状の波が何もかも無慈悲に浚っていった
満開の桜の樹の下では 気が振れることの秘密を知った
砂漠の砂埃りと朦朧とした視界の中では
碧い空とオレンジ色の粗い砂が 私を死の方へと誘っていた...
そしてとりわけ胸にしみるのは 独りそぞろ歩いた夕刻の西の空
かりかりと鳴る白いすすきの野原を あふれる夕陽をいっぱいに浴びて
もうどこまでもどこまでも歩いてゆきたいと思ったのだ...
(すべてがすべてがすぎてゆく)
その杳かなグリーンフィールドは様々なロマンスのエッセンスであり
寂かに胸のずうっと奥の遥か彼方に横たわり
平安と慰めを与えてくれるもの
そして私は泣き出したいような気持ちになる
(すべてがすべてがすぎてゆく)










スクリーンの憂鬱 − Melancholy of the Screen


マルチカラーのスクリーンの上で
ドラマは果てしなく続けられてゆくのに
私はこちら側で気が抜けたように呆然と
この光と影の戯れを眺めているしかできることはない
この殺風景な舞台裏で味気ない想いに駆られながら
その終りのないシナリオの行末を
黙って眺めているより外にできることは何もない
(あらゆることがかつて起こり そして消えていった波打際)
そのフィルムが少しも止まらないのは
未だ成就されなくてはならない未来が存在するからだ
完結されなくてはならないストーリーが存在するからだ
各々がそれぞれのシナリオを持ち
一見みんなでひとつのドラマを演じているように見えるが 実は
独り独りが別々のドラマの中で夢見心地に微睡んでいる
(あらゆることが同時に起こる波打際)
もしほんの一瞬でもそのフィルムが止まったら
あの薄暗い偽物の空は突然音を立てて崩れ落ち
後にはがらんとした碧い空が残るだけ
晴れやかに明るい精神の廃墟
聞こえてくるのは朗々とした鋼鉄の喉を持つ歌い声
それは荒野の呼び声だ
(あらゆることがかつて起こり これからも起こるであろう波打際)
或る日 その青褪めたフィルムがもう永遠に止まったら
様々なシナリオを紡ぎだすマシンの巨大なプロペラが止まったら
後にはからっぽなスクリーンの上を飛び交う銀色の粒子の瞬き
聞こえてくるのは映写機のジジジという回転音ばかり
その何も映っていない銀幕の目の醒めるような美しさ
暗い夜空に燦然と光り輝くメタリックシルバー...
俳優達は素顔に戻り
もうどんなドラマも起こらない どんな興奮も起こらない
もう誰も明日のことなど考えていないし
昨日のことなど覚えていない
ここでだったら私もやっと
自分の在るべき場所へ帰って来たのだと感じられる
(あらゆることがかつて起こり そして消えていった波打際)
もしもあのマルチカラーのフィルムがもう永遠に止まったら
宇宙は神様のお砂遊びです










永遠の一コマ − 1 Shot from Eternity


いつものように小石の道を歩いていた時
(これも永遠の中の一コマだ)
という考えが突然閃いたのだ
するとあらゆる歩みの体験が凝縮され集積されて
その瞬間に象徴されているような気がした
   私の歩み 彼等の歩み
   生きとし生ける者達の未来永劫へと向う懐かしい歩み
またそれらすべての歩行のエッセンスが抽出されて
たった今生まれて初めて歩行という行為をしているようでもあった
   永遠の真青なフィルムからのワンショット
   この瞬間の覚え書き
それからは もうどんな行為も永遠と刹那のオーバーラップになった...
明るい陽光の広がりの中にぽつんと浮かぶ私のシルエット
   シナイ砂漠の放浪の民
このあふれるばかりの陽光の中で私は
独り溺れかけているようでもあり また
光の洪水に溶けだして救済されているようでもある
宇宙の創成期に立ち会う証人のように
私は光の揺籃で優しく揺すられている
そして何の変哲もない小石が貴重な宝石粒に変貌する
何故なら 明日になればこの小石も構成要素と組み立てを変えて
今日とは全く違った物質になってしまうからだ
この小石がこんな具合に光っているのは今日を措いて外にないからだ
   時間の流れの只中における真青なフィルムのワンショット
   かけがえのないひとつひとつの行為
同時に 時間の経過というファクターが加わったことによって
それらの行為が美しい追憶としても映るのだ
いつものように小石の道を歩いている私が
すでに懐かしい追憶として認識される
恰も時間が円軌道を描いて巡り続けているように



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