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後の世 − World After
その後の顚末
どんなに息を凝らそうと どんなに耳を澄まそうと
それを言葉にした途端 どうにか表わそうとした途端
プツリと切れてしまうものがある
...あとに残るのはその後の顚末ばかり
もどかしさ
これでもない あれでもない
というもどかしさ
実際自分が何をしたいのかつきとめられない
というもどかしさ
そのくせほんの偶然から 或はほんの気紛れから
一端何かをし始めると忽ち熱中してしまうことが
そう少なからぬ頻度で起こるという
そんなもどかしさ
所在無さ
徒然
どこをどう曲がってこんな領域に来たのだろう
思い出そうにも記憶の糸はプツリ
痕跡の残さず消えてしまった
今は昔の胸踊らせる衝動
(さて 踊るような胸など残っていたのだろうか)
深海の底
だからどうしたというのだろう...
碧緑の水はかぎりなく流れて止まず
海岸の砂粒はさらさらと音を立てて崩れ
純白の波飛沫が碧々とした海をちぢらせるのに
最早光は地上に咲かず深海の底で微睡むばかり
ひるさがり
現身はなよやかになり次第に透きとおり
海の藻屑と消えてゆくのに
あたりにはまだかつての記憶が漂い
幻想世界を形作っているそんな午後...
またはひるさがり
Vogue
― 雲母摺り絵本の粒子達のお喋りが聞こえてきそうなひるさがり ―
私はアメーバの如く繁殖してゆく間断なき思考の連なりです
それも殆ど脈絡がありません
実を言えば私は
それらの間隙を縫って源泉へと溯ってゆく途切れがちの想いです
或は放心したスクリーン
麗らかな春の一日に屏風絵巻を繰り展げる混沌とした現世です
ウルトラマリンにわなないている浮世絵ふうの現身です
...気がつくといつもそこら中にかぎりない風が吹いている
(いとも優しく厳かに)
その追っても追っても逃れゆく遠近法的水のような風に
いつしか攫われてしまいたい
...気がつくといつも
...気がつくといつもかぎりない風が吹いている
(いとも優しく厳かに)
ウルトラマリンにわななく綺羅びやかな透明な翅
それは天界へと飛翔するのびやかな翼
やわらかなモーヴェの風に乗り
優しく然し力強く私を攫ってゆく春の風
...そして彼は只今放心中
それは先程まで熱狂的に踊っていた狂言師
つまり3秒前までのこの私の姿
脆くも束の間の儚い記憶 海の藻屑と成り果てる...
風はどこからでも吹いてくる
どんな瞬間にも訪れる
それから私は飴色にとろけはじめ
いつしか見知らぬ河原へと吹き寄せられている
......
きんぽうげが無言で咲いている
白い雲が浮かび梢はぴたりと動かない
時刻は先刻止まったばかり
(見るべきものは何もない)
その何もないということの なんというこの気持ちの良さ!
それから更に幾日かが過ぎ
...気がつくといつもかぎりない風が吹いている
Black Out(意識喪失)
...では再びこちらへ帰還したという訳だな
やれやれ 何千回繰り返すのだろう
あのギャップが曲者
(つまり一瞬のブラックアウト)
そのために こことそこにディスタンスが生じる
「ああ 麗しのディスタンス」
と誰かが嘆息まじりに賞賛した代物に間違いない
それ故「あなたは追憶のように美しい」となる訳だ
つまり 取り返しのつかない距離が
(平行線のように決して出遭わないこことそこ)
なんの変哲もないリアリティーを
むしろうんざりするような浮世の戯言を
極上の金襴屏風絵巻に変身させるのさ
「ああ 愛しのマルガリータよ」とくる訳だ
あらゆる白昼夢が胸に沁みるのさ
(距離によってすべてが夢と化し 夢であれば何であれ美しい!)
それでも尚且つ告白いたします...
私は全身全霊を賭けて
この銀河の隅っこで日夜繰り展げられている悲喜劇を
衷心から絶賛し身も世もあらぬ呈であります
...それでいつしかあっちへ逝っちまうのかね
その時が来たら
時?
それもやはりもうひとつの
すこぶる極上の喜劇という感じが致します
心をこめて
菫色の孤独
かつて砦の跡で草の波濤(なみ)を眺めていた時に
不在者とでも呼ぶしかないような臨在を感じたのだ
それは何ものかの不在なのだが
同時に凄い臨在感があるために
不在者として存在の領域へ入れてみたい者達
強烈な真空の吸引力
(緑の草の波間には私をおいて他には誰もいなかった)
それは私の外側にあるのか 内側にあるのか
つまり 私は不在者とかいう者達に遭遇したのか
それとも私がひとりの不在者になってしまったのか
判然とはせず またどちらでも同じような気もするが
その時 野原は菫色の孤独に覆われていた...
最早どんなに叫び声をあげようと 絶叫しようと泣き喚こうと
誰の耳にも届きはしないのだ
(そんな誰かさえいるかどうか分からない)
いや 呼び声は音波となってキャッチされても
私の在り処を彼等に伝えることは不可能なのだ
いや そんな私の在り処の有無さえあやふやだ
我 未だ此処に有りや無しや
その甘やかな死の気配
一度渡ってしまったら生還することのないルビコン河
誰もいない時空の只中で息絶え
その屍さえも忽ち元素に還元されてしまう領域
(実はそこには孤独を感じる私さえもいないのだ)
何故なら この私そのものがまろやかな蒸気となって
緑の草の波間をわたる涼しい風になってしまうからだ
誰もいないから孤独であり その孤独を感じる私さえいないから
二重の意味で本質的に孤独なのだ
(そこには確かに誰もいなかった)
確かにあの時の草の波濤は 菫色の孤独との遭遇地点だった
遥か遠くへ限りなく遠ざかってしまうこと
そして風の囁きの中へと懐胎すること
(今ある私の姿としてではなく きっと健やかな風の分子になって)
菫色の孤独 − 不在者の臨在
見知らぬ河原で
目醒めるとそこは見知らぬ河原で
物の輪郭はみな明瞭なのだが 一際の親近感が排斥されていた
どこをどう曲がってここへ辿り着いたかについては
髪をさらさらと撫でてゆく風の囁きにも 銀色に光る流れにも
満足する答えは見つからなかった
一瞬のうちにか 或は一定の時間の経過の後にか
とにかく眼前に広がるのは只々見も知らぬ白い河原で
呆然と佇むより外に術がなかった
ではそれが不愉快なのかと言えば どうやらそうでもないらしく
すべすべした丸い小石の群れも それに反射する優しい陽射しも
変にさっぱりと清潔で 寧ろ気持ちが良いくらいだった
そこにどのくらい居たのかと言うと どうやらそれも曖昧で
しばらくの間佇んでいただけなのか
それとも途轍もなく永いこと無言で立ち竦んでいたのか
判断する手がかりも奪われていた
またどちらでも時間の流れとしては同質のようでもあった
困ったのは さてこれからどこへ行こうかと思いついた瞬間だった
何より皆目見当がつかない土地であるだけでなく
どうしてこんな所に居るのかさえ分からないので
さてどうしたら良いものだか 何から始めれば良いのだか
何のアイデアも浮かばなかったからだ
...それでどうしたかって?
そんな野暮なことは訊きっこなしさ
(種明かしをすればただもうずんずんと闇雲に歩いて行っただけさ)
ある惑星の上で
では これがある惑星の上なのだろうか
...したい事もなく 会いたい人もなく
何故って ここではもう誰のことも知らないのだし
ここで実際にどんな事が起きているかさえ分からないのだから...
よくもまあ皆な忙しそうに蠢いているものだ
マリオネット宜しく コマ落しのサイレントムービーのように
ぎこちない動作で歩いている
...それを呆然と眺めているしかできる事もなく
とにかくここでの適切な振舞い方を知らないうちは
(どんな惑星にもそれなりのルールや法則がある)
あまり派手に無茶苦茶しない方がいい
(尤もそんな気持ちなど微塵もないが)
どうやら身体のどこかに空気孔か何か開いていて
そこから空気が漏れているのか
それとも外界から空気が流れ込んでくるのか
どうにもすうすうとして一向に力が入らない
それで何かをする気も起こらない
...黙って見ているより外にする事もなく
別に興味があるというのでもないが
外にする事など無いではないか?
とにかく不平や不満もない代わりに熱狂できるものもない
痕跡も残さずに消えてしまった今は昔の胸踊らせる衝動
(さて 踊るような胸なんてまだ残っているのだろうか)
どこをどう曲がってこの空間に不時着したのか
思い出そうにも記憶の糸はプツリ...
いや 朧ろげな遠い記憶によれば
ある時ある界隈で ジュラ紀だったか先カンブリア紀だったか
何か寂かな爆発のようなものがあって
その後はもうすべてがふわふわと何だか妙に覚束ない
だからといって勿論今のこの境遇にさして不満があるのではなく
寧ろしみじみとした満足感さえ湧いてくる始末
(これは事の顛末としてはかなり上出来ではないだろうか)
とにかく私は今...とある惑星の上で
とりたてて何をするでもなく それについて悩みもせず
毎日は淡々と軽快に過ぎてゆき
時にこの私自身でさえ...とある誰かになってしまい
そうなれば事の全体は幻想的なほどに美しく
伝説のように 神話のように
まばゆく光り輝く銀河の渦巻きの中を行きつ戻りつ漂っている
...それでどこへ行こうというのだろう
そんな事は誰にも分かりはしない
Burnt Siena
ゆるやかな時間の経過の中で
私は何ものかの終焉の淵で寛いでいる
それは漠然とした焦燥感のようでもあり また
所在無さ 無為 − そのための放心状態でもある
いわゆる憂鬱ではなく倦怠ではなく
頽廃的なムードとも少し異質で
トワイライトゾーン(黄昏地帯)とでも呼ぶしかないもの
(私は菫色の大気の淵で呆けている)
時間の経過 − これが重要なエレメントで
淡々とまたゆるやかに進行してゆく
時間の経過 − そのこと自体のポエジー
その膨大な時間の流れが気の遠くなるような効果を生み出し
(私は過去現在未来永劫の裡に棲息している)
そのために起こる眩暈であり そのことによる放心である
(それがそのようであることの至福)
(それがそのようでしかないことの至福)
精神の廃墟 − そこにはゆるやかな風が吹き
崩れゆくもの 朽ちるもの
燃え尽きた後に残るもの
ここではな そこを喚起して止まないもの
ここでもありまた そこでもあるもの...
為すべき事は何も無い 為し得る事も何も無い
すでに何もかもが終わってしまったからだ
後は時間の経過をなぞりながら
沈黙して座っているしかする事はない
(私は菫色の大気の淵で呆けている)
そして人生はうんざりする程長く
不可思議なファントムが彷徨う夢見心地の中で
(もう何がどうなろうと構わない)
(何がどうなろうと同じなのだ)と
私は何ものかの終焉の淵で 今またさらに寛いでいる
明るい午後の陽射しの中で
刻々と淡いシルエットに変貌しながら
顆粒状の乾いた時刻の砂時計に浸蝕されて
血潮までが鮮やかな緋い粒子になりながら
フェードアウトしてゆくシネマのラストシーンとして
さながら翅を捥がれた堕天使の如く
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