1/3次元の海原で時刻に託して語られたこと


(全体今はいつ何時頃でしょう?)
と突如雷鳴を轟かし 素敵にあなたが訊くものですから
私は一瞬躊躇いながらも真剣に手がかりを探します
それが2時半であるのか 3時になるのか
(我々は未来の亜大陸の真只中にいるのか
 それとも今尚小暗きシダ茂る湿原地帯
恐竜族がたむろす大過去の渦中に棲むのか)
おそらくそのどちらでもあるのでしょうが
或はどちらでもないのでしょうが
不運にも私にはその台詞の意味が解らない

(さて 何時というのはどういう現象だったのだろう...)
それでもあなたは あの艶やかな象牙色の文字盤の上に
慎ましくうずくまっている
長短一対の針が織り成す不可思議な角度について
先刻ご質問なさったような気もしますので
(果たしてそれは実際に起こった事件でしょうか
 それともこの1/3次元の海原における
 ちょっとした幻覚の類でしょうか)
それが凡そ直角と称されるあたりの
すっきりとした領域にさしかかっていることでもあり また
私がここで口をつぐみ まじまじとあなたを見詰めるのであれば
紳士淑女の鑑たるあなたはさぞや吃驚仰天されて
そうなればあなたが時間にかこつけて投げて寄越した
親密なるサインを無碍にする結果にもなり
終にはこの底意地の悪い奈落のぬかるみに溺れて
暗礁に乗り上げて遭難し 絶命の憂き目を見るでしょうから
(まあ それも素敵なラブストーリーのエンディングには違いないが
 その件については後日改めてお話し致しましょう)
私は密輸業者よりも尚おずおずと
(生憎はっきりとは確認致しかねますが
 どうやら巷間で久しく呼び習わされているところの
 3時某とかいう由々しき事態が
 急速に接近している模様であります)
かようにおしらせ報告するのです

それでもまだ言い足りない気持ちがして
毀れやすいマチエールをあれこれいじり回す彫刻家のように
熱心にミクロスコープを覗く化学実験室の学生のように
あなたの精神のアンテナが偶然にもキャッチ受信した
このモンスター然とした時空の中で
(そもそもの始まりなここなのです
 けれどこのモンスターのなんと惚れ惚れすることでしょう
 こんな時空に生まれついた私はなんと幸運なのでしょう
 外界ではたった一色にしか見えない光の束が
ここではレインボー虹色に煌めいたり瞬いたりする)
こんなにも寄る辺のない私達をしばし停泊させてくれる港
(それも架空のものでしかありませんが それでも)
一時の愉しい暇つぶしや熱狂的な法螺話作りに我を忘れるのです
(そうです 私の見るもの聞くものはみんな如何様 紛い物
何故ならそれ等がいずれ姿形を変じ そうして消えてゆくからです
この極彩色の恍惚りするような怪物の懐へ)

時に私がもっと素直で勇気と愛に満ちているのであれば
あなたが最初の産声をあげようとしたその刹那
(全体今は何時頃でしょう?)
躊躇せず鷹揚に反応します
(御覧なさい 宮殿には只ならぬ気配が漲って参りました)
あなたは円らな瞳を巡らして了解の徴に軽く頷きました
仮にその折 時ならぬ雨が窓ガラスを音繁く叩くのであれば
(なんと清々しいメロディー旋律でしょう)
そんなリリカル叙情的な受け答えも可能でしょうし
(では 熱い紅茶でも沸かしましょうか?)
そんな溌剌としたシーン場面も展開されてゆきます
また私のこころ精神がもっと華やいで詩的なムードを望むのならば
赤い毛織りのスリッパをぱたんと脱いで恭しくお辞儀をするでしょう
そうしたことのいきさつ経緯は
この室内を占めている諸々のファクターやシチュエーションによって
想像以上に影響され また変質もするのですから
(それだって皆なあの怪物のトリック奇術です)
あそこの花瓶に差してあるのが青いリラなのか アネモネなのか
白い壁に掛かっているのが抽象画なのか 風景なのか
絨毯の色やカーテンの材質 その時の気候や気分など
そんな小さな事象の影響を受けて
さてどんな場面が登場するのか簡単に予言はできません
(宇宙のちりあくた塵芥がそれぞれ勝手気儘に好き放題に
 あちらこちらで集まって様々の星雲を作るのです
 そして色々なその場限りの束の間のストーリーが生まれるのです
 生まれたと思えばすでに消え...)
一頻りこんないいわけ説明を脳裡で組み立ててみた挙句
その表面的な煩わしさ故に無邪気なあなたを脅かし
こんな寂寥の内にあなたを独り置き去りにするのは心苦しく
またあなたに対する愛情を示し
私達の軽快な身振りを麻痺させないためにも
私は暫し言い澱み 涙をこらえたその涯てに
(そうです!真に只今3時なのです!)
と誇らしげに世界に宣言するのです
………
(殿下 その間凡そ3秒程であります)







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