F感覚


ずずずずず...ずずずずず...
地盤沈下じゃ 地崩れじゃ
ずずずずず...ずずずずずずず...
少うし真面目に話すには確かな基盤が必要じゃ...
此処○○では本日も弛みない地滑りが観察されております
それがあまりに頻繁なので
この領域に棲息する生命体には自然に落下感覚が備わっている
惑星地球で無意識裡に重力の恩寵を受けるように
ここ星間での被造物達の物の見方や考え方は
皆なこの失墜の憂き目を見るのです
(ほら君 覚えているかい?
 ジェット機で飛行中に突然乱気流に巻き込まれた時のことさ
 あの空白の時間のようなエアポケットの中で
 お腹の底から急激に生命力のようなものが抜けていったじゃないか
 あれがもう2・3秒長く続いていたら僕は間違いなく発狂していたよ
 自分の所謂正気というものがどんなに肉体と関わりが深いか
 つまり肉体感覚というものがあって初めて
 僕の正気は保たれているのだということが
 あんなにはっきり解った瞬間は無かったよ
 ということは僕の考えることや感じることは皆な知らないうちに
 肉体という形態に捕われている訳なんだ)...
   GravitationのGではなく Fall−downのF
   つまりはF感覚という訳です
それで完結した思考を持つことができません
さらに思考力の有無さえあやふやです
アメーバの如く絶えず均衡を破り自己異化してゆく生命体
それは際限の無い墜落です
ずずずずず...ずずず...
それは虚空の真只中で毎瞬毎瞬宙ぶらりんになるようなもの
何かに摑みかかろうにも 意識の焦点を合わそうにも
刻々と変貌してゆく周りの景色
(いや 変貌してゆくのは紛れも無いこの僕の方さ)
その弛みなき 飽くなき崩壊
(莫迦なことを言っちゃいけない
 そんなに甘ったるいものじゃあない
 発狂だよ 発狂!)
(( 気象庁の報告に拠りますと
 その原因及び震源地などについては一際不明
 只 この底無しのアビスにおいては極く自然の成り行きであると...))
そうです!
彼等には自己という結晶化したイメージ心象が稀薄なのでした!
それが不安感を増長する
(不安ではない まさしく戦慄だ)
先刻まで自分だと思っていたものが今や全くの別人だと気づくのですから
ずずずずず...ずず...ずずず...
…是く申し上げる私も実は先刻の私の相似形に過ぎません
  …是く申し上げる私も実は先刻の私の相似形に過ぎません
    …是く申し上げる私も...
以下このように連綿と自滅劇は繰り展げられるのです
   無重力圏での無着陸飛行
然しそんな境遇に翻弄されながらいつしか総身の緊張もほぐれ
(だってこんなことをいつまで我慢できるというんだね
 誰にだって限界があるものさ
 そして終いに ええい もうどうにでもなれと思うんだ
 すると突然ほっとしてしまうという訳さ
 尤もそうでもない限りあの底無しの急降下は止まらないだろうな)
無重力圏での漂い方を了解した暁には
存在の危機ですらあった落下感覚は
いとも喜ばしい浮遊感覚へと昇華されます
   Fall−downのFから FloatingのF
   つまりはF′感覚です
すすすすす...すすす...すうすう...
ああ なんとも素敵な心持ち!














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