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ロンバルジア
シエナ砂丘 この脈々とうねる黄土地帯も どぎついオレンジ色の砂原も 累々とした屍体の山が風化して 金属質の地平線まで吹き散らばったものだとすれば そんなに莫迦陽気なことでもない むしろ晴れやかに悲しいのだ ここいら一帯は昔は緑のオアシスだった... 失われた地形の痕跡を探してうねうねと蛇行する砂粒の丘陵 それは電気仕掛けのアルミニウムの生き物だ 微かなペトロールの匂い あたりの空気がじりじり焦げついているけれど もう何も無かった振りをして歩いていこう... ジュラ山脈 鮮やかなスカイブルーの中にぼんやり浮かぶモーヴの山系 (メタリックな音さえ聞こえてきそう) ペパーミントの風が軽やかに吹き シルバーに輝く遠くの山肌から冷気を運んでくる もっともそれに靡く樹木の存在は皆無なのだ 雲ひとつない大気は明瞭 ミクロスコープで覗いたように見晴らしが良い (物象それぞれのエレメントが透けて見えるよう) 熱気球か気紛れな飛行船だったら 偶には迷い込むこともあるかもしれないが このオゾンの稀薄なジュラ山脈には 幾世紀も前から鳥も飛ばない ババリア台地 背中に飴色の翅がはえ 空から透明なマナ糧が降るババリア台地 野原で踊る不在者達はペパーミントの香りにうっとり... (誰をして不在者と呼ぶか? それは勿論人間ではなく かと言って完全な物質でもなく いわばその中間的存在のようなもの ここに確かに在るのでもなく 然し全く不可視というのでもない 例えば不意になんの前兆もなく振り向いたような時に そこに如実に感じられるもの つまり 時空間のA点からB点へ瞬時に飛躍する時 その二点の狭間に顔を覗かせるもの その時空のブレの中にこそ棲息するもの) その真昼でも決して太陽はぎらぎらと照らさず また常に乾季のような涼しい大気に満ちたババリア台地では 夜になれば白いマントを靡かせたキャラバン隊が残していったような 朦々たるココア色の土けむりの中に 時にはレモンイエローの月が登場し 時には水銀製の重たい月球が昇る そして真昼の不在者達は 或る者は桃色の綿毛となって台地にゆっくり舞い降りて来る そして或る者はすでに心地良い眠りについている コバルト平原 ……………… 何も映っていない殺風景なビデオスクリーンのような 見渡すかぎり単調な漠々としたスペースに 聞こえてくるのはジジジ…という電子音ばかり (それもスタジオ録音のよう) 様々な青色のグラデーションを持つ硬質なコバルト平原が 黎明期のような 黄昏のような 淡いピンクとパープルのトワイライトの中に あてどなく浮かんでいる 夜空に尾を曳く流星や隕石さえ降下することを熄め そのためにここはいつも午前零時のようだ カリギアの森 色とりどりの宝石粒が沈黙の瞳を開くカリギアの森 ルビー サファイア エメラルドにオパール 画家のアトリエから脱け出してきたような 独特の手法で描かれたカラーとフォルムの世界 真空放電のような賑わい そしてペパーミントクールな月球(つき) ブルーグレーの陰影を背景に 遠方の都市がオレンジ色の霞の彼方でふるえている プリズムのくだけちる響きをサウンドトラックにして... ドロテア湖 とろりとしたワインレッドの湖面は 思い出せない程遠い昔からそこに在ったかのように (まるで誕生の時さえ持たないかのように) ほのかな陰影の中に横たわりひっそりと呼吸している それはあの曖昧な微笑を浮かべて暁の子ルシファーが 虚空にゆるやかな螺旋を描き墜落したあの日から そのままの状態に保たれていて 以来 際限も無く堕ちてゆく者達を優しく宥し受け入れている ダルマチア海岸 ソフトなパステルカラーの浮世絵のように 無数の粒子の星雲から成るダルマチア海岸 ここには色んな惑星の蛹が降りて来ては 地球の果てない夢に姿を変える (青光りする気圏の底の底) ここではいつも晴れている 生暖かいヴェールが下界を包み 遠くの方まで影ひとつない 足跡はきらめく砂に消え 荒野には呼び声も聞こえない 樹木もなく風もないから 地平線に泡立つ海の ちぢれる波の型(かたち)まではっきり見える そのマーブルの彫刻のような 先カンブリア紀の化石のような 白くちぢれる乾いた波が 真青なアトモスフィアの中で冷たく光る アルフォンソ砂漠 (………………) さて 何か聞こえてきましたか? (………………) 確かに何か囁いているようではあるのですが 生憎のところここいらには忘却物質のようなものが舞っていて そのため殺風景なステージで何が演じられているのかは 臆測に頼るより外にない もっとも不平を言うべき観客達は気づいてみれば誰もいない 俳優達も只今不在 (ティーブレイクだとでもいうのだろうか) あまりのシアターの不手際にディレクターも行方を晦ましてしまった... ただ 人を忘却へと誘うアルフォンソ砂漠の類稀れなる囁きが 誰の耳にも届かないのは残念だ... というのが原作者のコメントです シドン郊外 シドン郊外はまたしても砂の海 (それは遥かなる昔からそうだったよ) きらきらとした砂粒はこんなにも明るい廃墟なのだ もう色んなものが形ある物質に結晶化するのに疲れ果て 結局元の極く普通の砂の分子に戻ってしまった だから樹木も無いしオアシスも無いし水も無ければ鳥も飛ばない 蜃気楼でさえ同じ運命を辿って消えてしまった それからはもう何事も無かったように 呆れる程太古の昔よりまるで何事も無かったように そこはしんと寂まりかえっているのだ なんの偶然からか不運にも迷い込んだ旅人でさえ この砂の海をしばらく徘徊しているうちに その砂粒と同様の粒子状の身体になってしまう (人類砂漠化の波が刻々と押し寄せて参りました) ロンバルジア(マリンブルーの気流に乗って) マリンブルーの気流に乗って遥か上空を駆け巡れば 下界で繰り広げられるお芝居は心愉しきフェアリーテール 虚構の上にこそ成立する目も綾な仮装舞踏会でしかない それでもその虚構こそ 仮初の舞台装置こそ 心をワクワクさせるのであり (何故なら形があることによって初めて不可知のものは流れるのであり そうでなければすべては見えない世界の見えない者達によって行われ この地上の者達には何も残らないではないか そうなれば物皆は羽根を捥がれた堕天使の如く まるで生気の無いものになってしまう それに虚構の姿を借りてのみ顕されるもの 実質をこの三次元世界に持たないものだってきっとあるに違いない) すべては幻想 イリュージョン それがイリュージョンだからこそ美しい! そんな様々な現象界を抜けて マリンブルーの気流がさわやかに吹き過ぎると もうそれだけで何もいらないような その透明な青みだけでもう胸がいっぱいなような たいへん満ち足りた心地になってあらゆる懸念を忘れるのです... (だからロンバルジアなんてどこにも存在しない架空の世界のこと そのナレーターである私も種を明かせば仮の姿 それを先程から聴いているあなたも実は 或る日どこかの惑星から降って来た煌めく星のかけらではないと 誰が断言できるでしょうか?) |
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