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いと杳かなる流れ星(彗星のコラージュロマン)
(ここは魔境です 魔境です) (誰あれ?そこで不吉なことを呟いているのは) (ここは魔境です 法悦境です) (誰あれ?そんな素敵滅法界な冗談を言うのは) (私は未知なるアステロイド いと杳かなる流れ星 銀河系の彼方より漂い着きたる彷徨者) ここはすべてのものが風と化す古えの廃墟の市街区です 灰褐色のもうもうたる砂塵がことごとく物象を覆います (ねえ そこの旅人さん ひとつあなたの故郷の話をしてください) 実に耳鳴りというものは 頭蓋骨のカテドラルにいちめんに鳴り響く銀の鈴 しんしんしんしんしんしんしん... 黄昏色にあたりが染まる頃 そんな極微な鈴の各々が 胸の奥底に秘めていたお伽話を囁きだすのです 或は錯覚かもしれないが それはどちらでもいいことです (さて 諸兄には宜しいか... 我は極く稀なる息吹きであるよ むしろ厳かな嘆息のようなもの 身じろぎせずに聞きなされ) (さっきの魔界はどうしたの?) (あれはそち其方を誘惑するための悪戯じゃ 人目を惹くための罠なのじゃ) (どうしたのかしら?急に睡魔が襲ってきたわ) (睡魔というより酔い痴れておるのじゃろう) (何に?) (御覧...ここの空気にです そうして涯てしない風にです このどこまでも涼しい風の中で我々は) (我々って あなたひとりじゃなくて?) (いえ もう無数にいるのです) (ちょっと待って... あなたはさっきの人とは別人ね 喋り方が違うもの) (私はリゲル 先刻のは長老ユリス) (我々はもうどっちがどっちというのではないのじゃよ) (誰が誰か分からなくてはこんがらがってしまうわね) (左様な判別などもうどうでもいいのじゃ) 流れ星の中味は宇宙の塵埃です 塵埃(ちりあくた) ちりあくた あたりに無際限に広がって散り散りになったファンタジーの想い出が 大気の透明なヴェールに映っています ステンドグラスの淡い影 ほら またひとつ真珠母色の流れ星があそこを逝きます 実に鮮やかな軌跡を描いて... 彗星は儚い存在です 大気圏にぶつかった瞬間にその身を焦がして光るのです (何をあんなに焦がれているの?) (さあて) (それについては沈黙を守るのが審美的態度というもの) (審美的というのは贅沢品です それ故一層美味しいのです) ああ かえ還りたい 還りたい 私の故郷へ還りたい (今のは流れ星のうわごとね 彼等の白鳥の歌なのね) (どうしてそれが分かるんだい?) (だって流れ星の宿命はあの啜り泣くようなノスタルジア) (故郷というのはどこだろう?) (何方より着たりて何方へか去るのが必定ならば やはりあらぬ彼方と言うべきじゃろう) ああ 還りたい 還りたい いっそこの身の朽ちるまで 堕ちてゆきたい地の涯てに たまゆらの命 ささやかな灯火 さらさらさらさら... (沙漠を歩いているのですね) (ええ 尽きせぬ想いに泣いているのです) さらさらさらさら... 涯てしない謎と青い影 漂泊の日々は尽きることなく 何か途轍もなく遣る瀬なく そして幽かに優しいのです 私はただもうふわふわとどこまでも軽くなってゆく ああ 還りたい 還りたい アラビア沙漠に還りたい そこは私の精神の慎ましい伴侶 天界の滴の私達 異邦人の集う場所 こんなに明るい地の涯てに私という名の蜃気楼 しんしんしん 積もる寂けさ 頭蓋に響く白銀の鈴... (時に 彗星の尾っぽはどんな要素から成っているのでしょう?) (ああ あの箒の部分ですね) (ええ あの煤けたあたりです) (そうですねえ...顆粒状の悲哀などいかがでしょう?) (ほう 顆粒状とな?) (すなわち 情緒的な涙の一滴たりとも存在しない全き寂幕のことですね) (成程 グッドアイデアだ つまりはわび侘という訳か) 実にかなしきは侘住居 (わっはっは) (では 知られざるものへの憧憬なんぞはいかがでしょう?) (ええ そうですね その通りです) (当て処なき逍遥への憧憬です そして消滅への予感です) 揺れて踊って踊って揺れて こんな素敵な物狂い 揺れて回って回って揺れて 一夜の夢の醒めぬ暇... (洪水じゃ!大洪水じゃ!) (一体どうしたの?) (儂等のキャラバンが藍色の液体に浸透されてゆくぞ ああ 売り物が皆なとろとろに蕩けちまう!) (しっかりしてよ ユリス!) (この一大事にしっかりも糞もあるものか 儂等の自慢のヴィジョンが水泡に帰すのじゃぞ 忘却の大河の氾濫じゃ!) (御安心なされ 御長老 只今のはちょっとしたリハーサルです) (然しいずれ本番があるのじゃろう?) (ええ その前兆は時折観測されておりますが その時分には今在る我々は我々ではなく 今在る星々は姿形を変じ) (謎々遊びは止めましょう 迷宮芝居を止して頂戴) (そうじゃ 儂は死ぬかと思ったぞ) (その通り 御逝去遊ばすのです 私共はいずれ皆) 揺れて巡って巡って揺れて 一夜の夢の去らぬ暇... (その日が来たら艶々のビロードのサンダルを履いて 哀しくなる程鮮やかな緋色のマントをはためかせ 最期の飛翔を致しましょう) (私は闇夜の花火になって華やかに煌めいて逝きましょう) ああ 芳ばしい宵の風 虚ろな深淵のレクイエム鎮魂歌 in my absence...私の居ぬ暇に アンドロメダ星雲での暇つぶし このなつかしさ ひのひかり ひかり光子はうすれ 眩暈はうすれ... 大草原です!ひのひかり 尽きせぬ砂粒の大海原をゆくhappy‐go‐lucky‐life... (絵葉書をください) (どれにしますか?) (その一番賑やかなところをひとつ) それは絶妙なコントラストです 不毛性と豊饒さ 市場と沙漠 孤独と祝祭 etc.etc. (どちらへ御発になりますか?) それは私にも分からない 方向というのは不可解な要素 それでも異郷へ迷い込んだ時には誰でも通信を送ってみたくなる そして何とはなしに往来へ出かけてゆく (そうです 理由など無いのです) (アンドロメダでの気紛れな散歩 いや そぞろ歩きってとこですかな) (まあ 御丁寧に) ふらりと角の喫茶店にでも寄ってみたくなる 大きな窓ガラスから漏れる光のシャワー (恍惚りするね) かすかに物憂い昼下がり (あなたの物の言い様はどうも陳腐でいけません ありきたりで甘ったるいシャンソンのよう) (そこがまたここではいいのです ありふれていて俗っぽい歌い方こそいいのです それにここで本当に起こっていることのエッセンスを 見事に摑まえられる表現などありやしません) (あなたは掌を開いたまま空気を摑まなくてはなりません それに歌謡曲というのは浮世の夢で愉しい日々の泡沫ですが その奥底の深い青みと感応して透明感を醸し出す) (その透明感こそいいのです) とある惑星の物憂い昼下がり 目には見えない沙漠がうろつ彷徨く happy‐go‐lucky‐life... (では 私がいるのは地球ではなかったの?) (いえ もしかしたらそうなのです) (或は 決してそうではないのです) 調べ かすかに耳に残る調べ しんしんしんしんしんしんしん... ポエジー かすかに胸に残る詩情 さらさらさらさらさらさらさら... (エコーです 遥かな呼び声のエコーです) (目にはさやかに見えねども) (左様 何処からともなく漂う薫り) (その発祥地は?) それは終ぞ知られぬ秘め事也 ...... (気配がするのです!それが接近しつつある気配がするのです!) (誕生しつつあるのです!) (或る時 我々はこの現世に到来し) (しっ!静かに!あなたは逃してしまうわ) (我 今こそ出生の秘密を明かさんとす) (しっ!駄目じゃないの) (我 在りて在る者なり) (いけないわ あなたときたらきっとその時を逃してしまう) (これは御両人 いかがなされました?) (これはこれは マイレー侯には御機嫌麗しく) やれやれ...何としたことでしょう? この血潮のざわめき この焦れるような落ち着きのなさ あたかも今この瞬間を手放すまいとするかの如く 揺れて踊って踊って揺れて 一夜の夢の醒めぬ暇... (今と言いますと?) (只今です) (はてな?まず先刻というのが分からない ついちょっと後程というのも分からない) (そうなのよ そういった現象的なことならば私達には苦手な領分です) (まばゆい飴色の眩きが私の脳裡に湧き出でて私を酔っ払わせるのです) (否 正確に申し上げれば酩酊してはおりませぬ) (あちら側 すなわち外界から眺めたら私共はまるで白痴の如し) (外界というのも妖しいぞ) ここは魔境です 法悦境です (そうです きっとエデンの園は 楽しくも悲しくも苦しくも嬉しくさえもないのです) 私は只もうさらさらと 浸みいるような碧さの中で寂かに風化してゆくのです ひかりにみちて 私には色んな事柄がもう何が何だか分からない その分からないということの 然し何という美しさでしょう いえ 世界の不可解さそのものがこんなにも森羅万象を綺麗に映す 神秘に変貌させるのです 私はせつない沈黙の鏡 さざ波ひとつ立たぬ水鏡 碧緑色の湖の人跡未踏の玻璃鏡 (私は ですから背景です 此の世の精気の戯れをひたすら映す情景です それを私と呼ぶのも覚束ない程 そんなにも透き徹った景色です) 明るい小春日和... 青い小さな惑星は私達を載せて巡り続け 歓びや哀しみを抱擁したまますべてを載せて巡りつづけます 東雲の空 その永遠の回転音 (いいえ 永遠ではありません) 砂の音 風の音 さらさらさらさら... (ところで あなたはどんな軌跡を描くのですか?) (それは小生にも頓とげ解せぬこと) (成程) 私は未知なる小遊星 いと杳かなる流れ星 (そうです! 彗星の尾というのは諸々の諦めからもできている) 償いきれない涙のプール (自ら光出でよ) (えっ?何ですって?) (自ら光出でよ) (そうして私達は夜空に瞬く満天の星になるのです) 発熱し 発光し ひかり うすれ... (水素の粒を集めて巨きく成長し やがてひとつの星になるのです) (それも束の間の慰めです) (星は次から次へと生まれます) (そして次から次へと散ってゆく) しゅるるるる... いと杳かなる流れ星 |
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