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浮世草子 − Tales on This Shore
彼岸の浮き世 − Life on the Other Shore さあれ私は放心した銀のスクリーン うららかな春の一日に屏風絵巻を繰り展げる 混沌とした現世(うつしよ)です ウルトラマリンにわなないている 浮世絵ふうの現身(うつしみ)です 梔子色の大気圏 − Atmosphere さすがにユーラシア大陸だけのことはあります この梔子色のまろやかな大気圏 ふわふわとしたあかるい空気 ヘリウムを詰めた風船です いや 水素だったかな 朦朧としていますね 茫然としていますね 春になると一勢に花が開いて その花粉や蜜の薫りで噎せ返るようになる 調度そんな具合の風土です きいろくあかるくかろやかで 故郷に帰った時というのはこんな気分になるのでしょうか? (いいですね) (ええ もう極上です 天下一品) (ははは...酔っ払っているみたいだねえ) (そういうあなたも) 碧緑色の水質 − Liquid of Blueness (...さしずめ精神界における生理的食塩水でしょう その碧緑色の液体は) ぶくぶく溺れてゆきながらそんな戯言を言っているのだから ほんとうになんて幸福なやつ (碧緑の水というタイトル題じゃあ不味かったの?) あ まだ生きているぞ (それは意味としたら同じかもしれないけれど なにか模型のようになるでしょう 色と質とを挿入すると) (ふうん そういうものなのかね) (もういいからあなたはお眠りなさい) (有難う じゃあまた) ぷくぷくぷく... ほうら また一匹沈んでしまいましたよ 否 溶解してしまったのですよ こんな翡翠色の寂しさのなか... (寂かになってきましたね) (ええ それはもう それはもう) 彼方の水際(予告編) − Further Shore ……… (皆さん!この界隈のバザールでは 客観的真実というのはさして重要ではありません) (と言いますと?) (きらびやかな馥郁とした薫りがあたりいちめんに漂っているので その薫りを嗅いだ人は誰でもその言い知れぬ魅力に恍惚りとして 諸々の悩みを忘却してしまうのです 軽い酩酊状態です そんなに酷くはありません) (なにか特殊な忘却物質がこの界隈に溢れているのでしょうか?) (ええ 多分そうなのです) (それは黄金色ではありませんか?) (どうもそうらしいのです) (つまりは灼けるような光輝ですね) (実際そんなところです) 噴水の碧緑色のたまり水に次々波紋がひろがってゆくと それにつれてとき時刻の内部で繰り展げられる 夢幻(ゆめまぼろし)もひろがってゆきます けむり けむり ローマンス 浮き世のしぶき うたかたの夢 そしてこの薔薇色の宴の儚いお客達はあからさまな瞳で見凝め合う 華麗なお芝居 おしまい お終い... (寂かになってきましたね) (ええ それはもう それはもう) 遠方 − Distance ええ 確かに かつて私は遠方であなたにお逢いしたのです そしてよくよく想いを巡らせば 私は今でもその遠方であなたを待っているのです 後の日の出来事はすべて若き日の過ちにすぎません 過ぎ去った日々の記憶にも等しく 今この時が懐かしく昔日の郷愁として映るなら 私は確かにこの時を 遠方と呼んでもいいと思います 極々身近にありながら遥かに遠いこの場所に 私は独り投げ出され 困っているのかいないのか... それさえ知らず 今尚知らず 寂かに棲息しております 気になることがある訳でもなく (否 あるのだとは思うけれども直ぐには思いつきません) 独りでお茶でも啜っているしかできることはないかもしれず 頭の中はかすかにぼんやり... これは眠気から来るだけではないようです 多分 私の脳の働きが 拙い思考の網の目がほぐれているところに違いなく (実に素敵な心地です!) ゆったりと悠久の世紀とでもいうか そんなとりとめのない時を過越すこと これは老年期風の贅沢です 我れ早我が老境に至り 諸々の愉悦消え失せり 水底は朧にけむり この梔子色のユーラシア 海底に没した伝説の旧大陸の如し 水底はおぼろにけむり 黄金の泡沫 無数に立ち昇らんとす 実になつかしきかぐわしの大地 私は極々遠方であなたにお逢いするのです 気もそぞろ 夢うつつに! Same Time あなたの燦かしいプレゼンス(臨在)が 私を常闇からひきずりだしたのです 私は地平線の向う側であなたにお逢いするのです 仮初の時 … 此の世には位置しない時間と場所 あなたはどこやらの恒星からの遊びがてらの訪問者 何か重大な使命やら運命などから降臨した訳ではないのです もしそうであるならばそんなに微笑んでばかりもいられません 笑いの泡沫 存在のしぶき飛沫 bubbles of laughing, bubbles of being 彼の時でもなく 其の時でもなく こうして同時の時間をわかち合えたこと たいへん嬉しく思います 絹の眼差 − Eyes of Silk (そんなに見凝めてくれるのはいや 私 蕩けてしまうもの でもきつく目を閉じていてくれるのもいや あなたが摑みきれなくなってしまうもの) 彼の人は晒されし者なのです ある秘やかな光源に裡より照らされし者なのです (あなたの絹の眼差はみんな透き徹してしまうんだもの) それはどこで見たの?どこで聴いたの? 彼の人は別の大空に巡る僅かに小さな天球です (蒸留水の眼差よ 私を優しく揺すってください) (空洞です あの瞳は空洞です) (私はあなたという大海原に終には溺れてしまうのだわ) (幽冥界にたゆたっているのですから溺れてしまえば死ぬのです) (あなたは曼珠沙華の橙色を知っていて?) (ええ あの非物質的な色彩です) (華やかで同時に儚いの) 悲哀の涙で洗われたからでしょう それで晴れ晴れもするのでしょう 巷に雨の降る如く 我が心にも雨の降る (誰の悲哀?) (それは森羅万象の哀しみです けれど哀しみもまたいいのです) 情緒的解釈 感動的シーン それは何か大切なものが離れる間際の心残りの啜り泣き 然しさらに上空では たった一粒の涙さえ健やかな飛翔の邪魔になる! (その瞳はすでに情緒的結ぼれを通過しています) 無慈悲 非情の鏡 あくまでも軽く (そんなに見凝めてくれてはいや 私 蕩けてしまうもの でも決して瞳を閉じないで 私 蒸発してしまうもの) カリビアンナイト − Caribbean Night カリブの夜ならつるつるで水色の いつまでたっても暗くならない琺瑯製の青空です アラビアの夜は豊穣で まばゆいばかりの宝石や王や妃や冒険譚で終日明け暮れましたけれど ここでは語り手のシェヘラザードが蒸発致しましたので (こんなに暑ければ当然です) 緑と海と乾いた砂とどぎつい色彩の衣装と花と (それからオパール色のクールな月球もです) そんなものが銘々勝手に主人公になり歌い手となって 毎日が過ぎてゆくのです ...などと言ってはみたところで 私はカリブ海など見たこともなく アラビアだって知らないし ただ 私の内なるカリブのイメージがこのようであるというのが大切です (いいえ 少し正確ではない) そうです。私はイメージ想像しているのではなく この、ここの感じです。 それをどういうふうにか呼んでみたくてカリブなど持ち出したまでのこと 銀河の白い渦巻きのように私の頭もぼんやりしているので (その気持ち良さといったら格別です!) 勿論ガンジャなどやってはおりませんが... とりあえず。 今のところ何もすることがありません それがカリビアンナイトの真骨頂 だからといって退屈紛れに寝物語もしないのです 綺麗な月と涼しい風とココア色のローマンスがあれば 最早なんにもいらないような そのくせとっても大事なものが欠けているとでもいうような (それは残念な欠如というよりは更なる完全さへの憧憬です) とりあえず。 今は何も手につかないような そのくせ最早斯くなる上は一晩中踊り明かすしかないような (そうです!結局踊り明かしてしまうのです 気もそぞろに) (心が他所にあるからなの?) (そうかしら? いいえ 何か別のことを思って上の空なのじゃなくて むしろ心そのものがどこか他所にある感じなの) (遠方に?) (ええ ここが遠方であるという気がします) けれどともかく気もそぞろ... |
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